江戸、明治と皮革産業が発展してきた「革の街」台東区浅草にて、天然皮革卸事業を営み、創業80年を超える株式会社久保柳商店 (くぼりゅうしょうてん)。久保柳商店さまが打ち出す新たな革ブランドのプロデュース、アートディレクションのお手伝いをさせて頂いております。
新たに生まれた新ブランド「te saho(テサホー)」を発表するまでに行ったことを簡単にではありますがまとめさせて頂きました。
01.整理→久保柳商店の未来を探る
久保柳商店さまは「革の街」浅草で創業80年を誇る革の問屋です。常時200種1,000色、約13,000枚という在庫を誇り、「久保柳商店なら、求めている革がすぐに手に入る」という顧客の信頼を構築されています。
また、鞣し事業者、皮革製造業者といった、皮を革へ加工する仕事に従事されている人たち「タンナー」との繋がりも数十社あり、それぞれのタンナーの得意な技術や特徴を把握し、クライアントの要望を踏まえたオリジナル革を開発、プロデュースする力を持たれています。
沢山のオリジナル革の中には、革と異素材との組み合わせを行なったものなど多岐にわたる商品を開発されており、革のことを知り尽くした、まさに“革のコーディネーター”といえる存在です。
このような会社背景を踏まえつつ、昨今海外レザーの輸入が増加し、価格・量・質の平均化が加速していること、サステナビリティやエコフレンドリーを意識した革のニーズが高まっている点などを考慮し、主要な革問屋をピックアップしその中で久保柳商店さまが今回の新ブランドを通してどこを目指すべきなのかをポジショニングマップの作成や革だけではなく紙、木材、繊維、建材を含めた競業調査をするなど、久保柳商店さまと一緒に行くべき先を紐解いていきました。
02.コンセプト設計
久保柳商店さまの強みである「開発力(=研究開発力)」を活かし、業界に縛られない「久保柳商店の革」というポジションを確立し、これまでの取引先である国内アパレルメーカーやレザークリエイターとは違う新たな取引先(例えば海外、建築、インテリア内装・装飾など)に向けた商品ブランドを目指したコンセプトを考案しました。
「鞣しと染め」、「色」、「エコ×レザー」などいくつかの方向性のアイデアを出した中で、久保柳商店さまとセメントが導き出したものは「日本の伝統技法の掛け合わせ “革に重ねる手わざを極める”」というものでした。
革を知り尽くした久保柳商店さまが革の新たな可能性を求めて、日本各地の職人による伝統的な手わざ(染色、漆塗り、和紙、など)を掛け合わせて作るオリジナルレザーブランドで、革のコーディネーターである久保柳商店が日本各地の職人たちと、革を新たな素材に生まれ変わらせることを目的としたものです。
03.ブランドネーミング
意味が想像しやすいもの、覚えやすいものを意識しなるべくシンプルに、また海外販売も視野に入れた日本感のある言葉のチョイスなどを考慮し沢山のネーミングをご提案させていただきました。
そこで決まったものが「te saho(テサホー)」。
その名の通り「手作法」をローマ字表記したもので、日本各地の職人の“手”わざをブレンドさせることで、革を新たな素材へと導く行為は、久保柳商店にしかできない作法である。といった意味を持たせたネーミングです。
04.ロゴデザイン
「A_日本の心」、「B_革の持つ力」それぞれを表現した2つの方向性のデザインをご提案させて頂きました。
決まったのはDesign Aでした。
洗練された手わざ、鮮やかな色合い、革のしなやかな様子をタイポグラフィーで表現したデザインで、シンプルで主張し過ぎないが、どこかしら存在感を感じさせる様子にすることで、侘び寂び、心、精神など日本ならではの感覚を想起させるデザインです。
05.キービジュアルデザイン
古くから続く日本の伝統的な手わざとの掛け合わせをイメージさせるデザイン案を複数案提案させていただいた中で決まったものは、日本各地の職人にフューチャーした日本感強めのデザイン。
方向性が決まったところでブラッシュアップを重ねてte sahoオリジナルのキービジュアルが完成しました。
各地の職人が革を加飾しているシーンを日本画をイメージさせるタッチのイラストでキービジュアル全体を彩り、中央には出来上がった革を集めて丸革のシルエットを表現しました。te sahoの革が、日本の伝統的な職人による“手わざ”を掛け合わせて生まれた日本を代表する唯一無二の革であることを宣言したビジュアルです。
06.プロダクト_card case
久保柳商店さまの事務所にお伺いするとte sahoの革を使用した商品のサンプルが沢山あり、久保柳商店さまのこのブランドにかける熱意をそこでひしひしと感じたのと、我々も気を引き締めてこのブランドを成長させ多くの人に知ってもらおう!と強く思ったことを覚えています。
まずte sahoは革そのものを売ることを目的としたブランドなため、te sahoの革がどんなものなのかを知ってもらう広告的な役割を持たせたプロダクトにしたいという思いがセメントにはありました。久保柳商店さまの数ある試作の中にあったのが今回発表した縫製や金具が一切ないte sahoの革だけでできたカードケースです。
te sahoの無限の可能性が詰まったプロダクトで、掛け合わさった職人によるそれぞれの手わざによって、見た目、風合い、肌触りが異なり、選ぶ楽しみを与えてくれる、そんな商品となっております。
07.パッケージデザイン
カードケースのパッケージデザインではパッケージを通してそれぞれの革の特徴が伝わることを目指した案を複数提案させて頂きました。飾りのないなるべくシンプルに箔押しでロゴが入った貼り箱に、それぞれの革のテクスチャーが入ったステッカーを合わせることで商品の特徴とte sahoのバリエーションの豊富さを感じさせてくれるのと同時に、まるで「革そのもの」を選ぶのと同じような感覚でパッケージを眺めてもらえたら・・・という思いが詰まったデザインです。
08.カタログデザイン
商品をより詳しく知っていただくためのツールとしてカタログを作成させて頂きました。これからさらに商品の数が増えてくることを想定し、商品1つにつき1枚ものの仕様で作成し、それをファイリングすることで常にアップデートされた状態のものをお客様に提案いただけるようなものにしました。商品が機械ではなく丹精込めて人の手によって一つ一つ作られている様子、生産者の想いがこもったものであること、商品が醸し出す存在感、重厚感、上質感を紙を通してでも感じられることを意識した画像やレイアウトを考慮したデザインです。
09.展示会ブースデザイン
te sahoの認知を広げるプロモーションの一つとして東京ギフトショーへ出展するにあたり、ブースのデザインをさせて頂きました。
te sahoの世界観を壊さないデザインの中で、革の存在感や上質感など特徴や伝えたいメッセージが伝わりやすいデザインを心がけました。ブースは顧客視点、営業視点、利便性、などデザインする上で考えないといけないことがとても多いです。詳しく説明した事例がありますのでそちらをご確認ください。
10.技法ムービー
それぞれの商品に込められた職人の技術の背景を記録したムービーを作成します。
日本だけでなく海外の方々でも言葉で説明しなくても技術を伝える手段としてムービーは欠かせないものです。どういった場所や環境で、どんな職人がどうやってこのte sahoの革を作っているのか、実際に足を運ばなくても伝わる動画にすることを目指して作成させていただいています。
革一点一点を丹精込めて作り上げる職人の技術「手わざ」を是非ご覧ください。
11.ブランドサイト & ECサイト
オンライン機能を持つte sahoのブランドサイトを作成させていただきました。加飾の「技法」と職人の「手わざ」に着目し、それぞれを写真を交えてしっかり説明してあげることで、革に隠れる開発の背景や技術をしっかりとユーザーの方々に知っていただくことを目指しました。
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このような形でセメントプロデュースデザインは久保柳商店という会社の未来を見据え、ブランドの建て付けから、そのブランドをどう成長させるのか、そのブランドをどうやって人々に知ってもらうのかを、久保柳商店さまと共に考えサポートさせていただいています。これは今後も変わることはありません。
日本の革の文化や歴史に新たな道を切り開いていくであろうte sahoに今後もご期待ください。
【Credit】
■Client
株式会社久保柳商店 / Kuboryu Shouten Co.,Ltd.
■CEMENT PRODUCE DESIGN LTD.
三嶋 貴若 / Kiwaka Mishima(Brand Direction)
江里 領馬 / Ryoma Eri(Creative Direction, Art Direction, Design)
■Partner
・photography,movie
LUSH LIFE Inc.