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新たな事業の柱 – 家庭用お掃除ブランドCRASOUができるまで

インタビュー記事

商品開発は金融機関の紹介から始まった

弊社がセメント様へ商品開発を依頼することになった直接のきっかけは、お付き合いのある金融機関様からのご紹介でした。

当初、金融機関様からのお誘いで、「東京職人工房」が開催する全7回の商品開発セミナーに参加することから始まりました。しかし、セミナーに5回参加した時点で、自分だけでは商品開発が思うように進まないと感じ、セミナーの受講を中断。改めてセメント様に単独で商品開発を依頼(個社契約)することを決断しました。

この決断に至った理由はいくつかあります。まず、新商品開発自体に強い興味があったこと。そして、金融機関様からの紹介という点が「信頼できる企業だろう」という安心感に繋がったことが挙げられます。

また、当時、幸いにも事業の利益が確保できていたため、「今なら挑戦できる」と判断できた背景も大きいと思います。もし経営に余裕がなければ、この決断には至らなかったでしょう。

最終的な決め手の一つには、セメント様がメディアに出演されていた実績も考慮しました。「メディアにも精通しており、広報面でのメリットも期待できる」という点も判断材料になりました。

根本的な動機として、「新しいものを作らなければいけない」、特に「売れる商品」を作りたいという強い思いが昔からありました。既存の販売チャネルは一定数確保しているものの、新しい目線での開発はなかなか難しく、社内に商品開発部門もなかったため、外部の専門家の力を借りたいと考えていました。

当初は、BtoC向けに絞る目的があったわけではありません。BtoBでも構わなかったのですが、自社のリソースを活かしつつ、何か新しい分野に参入できないか、という着想から結果的に家庭用お掃除ブランドのCRASOUをブランドとして立ち上げました。

中小企業特有の課題と「新たな事業の柱」の必要性

商品開発に着手する前、弊社は社内体制と事業の両面で大きな課題を抱えていました。

社内体制の課題は、中小企業特有のトップダウン経営に起因するものでした。

社長が先頭に立つ一方、社員からの商品開発に関する提案は「ほぼ皆無」というのが現状だったのです。弊社には専門部署も定例会議もありませんでした。「お客様から3件同じ意見が集まれば開発を検討する」というルールこそありましたが、実質的には機能していませんでした。

当時、私が一人でセメント様との取り組みを進めていた様子を見て、社員は「アイデア出しや宿題が多くて大変そうだ」と感じていたようです。社員の本音としては「また新しいことが始まって面倒だ」という抵抗感も当初はあったと思います。だからこそ、会社全体を巻き込み、次の柱を作るためには個社契約を結ぶべきだと考えました。

事業面での課題は、新たな事業の柱の必要性でした。創業109年の歴史の中で、売上の約3分の1を占めるホームセンター事業は、もはや中小企業が大手に価格競争で勝てない時代に突入していました。

加えて、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱で、安定供給が難しいという問題も露呈しました。食品分野は好調でしたが、それが未来永劫伸び続けるとは考えにくく、もう一つ、二つ、新たな事業の柱を確立したいという強い課題感がありました。

アイデア出しの困難さと、兼務がゆえのスピード不足

セメント様との開発を進めるにあたり、具体的な取り組みとして、商品開発チームを社内に結成しました。このチームで、セメント様との定例ミーティングに臨み、そこから出される課題(宿題)に取り組むためのミーティングも別途実施しました。

開発プロセスで最も苦労したのは、やはりアイデア出しでした。

また、中小企業ゆえにリソースが限られるという現実もありました。開発メンバーは本業の事務作業などと兼務しており、開発の課題をこなす時間的余裕がありません。開発チームが集まれば、本業の通常業務が滞ってしまいます。結果として、開発に思うようなスピード感を出せないというジレンマがありました。

アイデアの方向性についても、CRASOUという商品は私自身も成功の一歩目だと捉えていますが、「既存事業の若干の延長線上」にある製品に留まったという側面もあります。

静岡の楽器メーカーがコンロを作った例のような、全くの異分野への挑戦ではなく、既存の清掃用品を「少し目先の変わった清掃用品」にした、という枠組みを超えられませんでした。飛躍したアイデアを生み出すことの難しさは、今も感じています。

収益性は「これから」だが、社内の雰囲気に起きた大きな変化

開発後の成果について、まず収益面に関しては、正直なところ「まだまだこれから」です。投資した費用を回収するには至っていません。

ロフト様で取り扱っていただいていますが、爆発的に売れているわけではありません。例えば6色×5種類の商品を展開すると、最低でも3万個程度の在庫を抱える必要があり、在庫負担が非常に重いという課題があります。

しかし、逆に言えば、この商品は他社が容易に真似できるものではありません。多大な在庫負担が参入障壁となり、「オンリーワンの世界」を築けていると自負しています。幸い(食品と違い)腐るものではありませんので、この点を活かし、様々な展示会に出展しながら、じっくりとブランディングを深めていく方針です。

一方、収益以外の面では大きな成果がありました。何よりも、社員の意識が変わったことです。社員が「自分たちで考えた」という当事者意識を持って商品化に取り組んだことで、会社に対するエンゲージメントが非常に高まったと感じています。「自分たちでも使ってみたい」と心から思える商品ができたことも、大きな収穫です。

認知度の面でも、従来の業務では接点のなかった雑貨・ファッション系など、新しい分野の方々と名刺交換ができたのは大きな前進です。「CRASOU」というブランドが、さらに認知を広げていく手応えを感じています。

新規開発に取り組む企業へのアドバイス

これから商品開発を検討している事業者様へ、アドバイスを求められるのは難しいことですが、まずお伝えしたいのは、「何よりも、まず挑戦してみなければ何も始まらない」ということです。

ただし、成功の確率を高めるには前提条件があります。それは「まず自社の既存事業が、柱としてしっかりと機能していること」です。中途半端な覚悟で取り組めば失敗は免れないでしょう。多額の投資も必要になるため、そうした経営的な余裕がない状態で「起死回生」を狙って取り組むべきではありません。

既存事業が安定しているうちに、次の分野を開拓したり、新たな挑戦を始めたりするための「きっかけ」として捉えるのであれば、非常に有効な手段だと思います。弊社にとっても、すべてが初めての経験であり、非常に勉強になりました。

また、前提として社員教育が行き届いており、社長が「やろう」と旗を振った時に、本気でついてきてくれる社員の存在が不可欠です。そうでなければ、社長は孤立します。孤立した状態で売れないものを作ってしまえば、それこそ会社を危機に陥れます。

まずは基盤となる社員教育や雰囲気作りを行い、外部のアドバイスを素直に受け入れ、実行できるチームを整えること。そうした環境を整える責任は、言うまでもなく経営者自身にあります。

既存事業でしっかりと収益が出ている会社であれば、商品開発は次のステージへステップアップするための素晴らしいきっかけになるはずです。

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