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「下請け」から「誇りを持てるものづくり」へ。

インタビュー記事

熊本にある工場で、今日も金属に命の輝きを吹き込む会社がある。
株式会社丸山ステンレス工業。
精密板金加工を中心に、建築金物や厨房機器など、さまざまな部品を手がけてきた会社だ。
レーザー加工機が放つ光の下で、正確に、静かに、ひとつの形がつくられていく。

「自分たちには技術はある。でも、それをどう活かすか、どう届けるかに課題を感じていたんです。」そう語るのは代表の丸山さん。
長年、下請けの仕事を続けてきた中で感じていたのは、自分たちでコントロールできない仕事へのもどかしさだった。

きっかけは、一冊の本との出会いから

2017年の年末。
丸山さんは、たまたま目にした日経ビジネスの「おすすめの一冊」として掲載されていた、弊社代表・金谷の著書を購入した。

「年明けに読んでみたら、自分が考えていたことがまさに書かれていた。
『持っているものを活かす』という考えが、理にかなっていると思いました。」

そしてその1ヶ月後。熊本から神戸へ。
日帰りで金谷のセミナーに参加。
「怪しくないかどうかを確かめに行った」と笑う丸山さんは、
その場で「この人たちなら信頼できる」と確信し、セメントへの依頼を決意した。

「もう後がない」と決めた覚悟

当時45歳を過ぎていた丸山さんは、「ラストチャンスだと思った」と振り返る。
「次の世代のためにも、新しい仕事をつくっておかないといけない。下請けだけでは、この先が見えない。自社商品を持つことが、未来を切り拓く唯一の道だと思ったんです。」2018年。丸山ステンレスは、セメントと共に自社ブランドの開発をスタートする。
目標は2年後の展示会出展。
「もし結果が出なかったら、商品開発はやめる」と宣言し、自ら退路を断った。

試行錯誤の果てに生まれた「STEN FLAME」

それまで、デザイナーと話すという文化はなかった。
「図面通りにつくる」ことが正解だった現場に、「誰のために」「どういう価値を届けるか」という新しい視点が持ち込まれる。

最初は、社内からも戸惑いの声が上がった。
「そんなもの、誰が買うの?」「うちがアウトドア用品?」
それでも、丸山さんは試作を続けた。
答えのないものづくりを、日々の手で探りながら。

完成品ができないまま迎えた展示会当日。
それでも来場者の反応は想像以上に良かった。
「やっと、光が見えた気がしました。」

そこからの1ヶ月、クラウドファンディング発表まで改良を重ね、
ついに自社ブランド「STEN FLAME(ステンフレーム)」が誕生した。
結果、130台以上の販売を記録。

丸山さんは言う。
「セメントさんが後ろで支えてくれたから、思い切って踏み出せた。
あの後ろ盾がなければ、挑戦しきれなかったと思います。」

“誇り”が会社の空気を変えていった

このプロジェクトがもたらしたのは、売上だけではなかった。

新しい挑戦に惹かれ、20代・30代の社員が次々と入社。
家族や地域の人たちから「テレビで見たよ」「お父さんの会社、すごいね」と声をかけられるようになった。
懐疑的だった社員も、今では「次は自分も取材に出てみたい」と前向きに話す。

「“仕事を誇れる”って、こんなに会社を変えるんだと思いました。
クラウドファンディングの成功も、若い人が来てくれるようになったことも、
全部がつながっている気がします。」

契約には載らない協働の力

丸山さんは最後に、少し照れくさそうにこう語った。

「セメントさんとの関係は、ビジネスの取引だけじゃない。
契約書には書けないところで、たくさん助けてもらいました。
あれがなかったら、今の自分たちはなかったと思います。」

金属を磨くように、時間をかけて少しずつ形を整えてきた挑戦。
その光は今も、熊本の工場で静かに輝き続けている。

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