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「自分の名前で売れない」と悩む職人の世界線を変えた、たった一つの作品。

金谷勉コラム

僕が工芸の世界で初めて「誂え(あつらえ)」をしたのは、京都の若手職人育成事業『京都職人工房』で出会った、竹工芸職人の小倉智恵美さんという方のプロダクトだった。

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彼女の作る「竹編みのバングル」。
いまだにこれ以上の完成度を持った竹工芸のバングルを見たことが無い。

でも、彼女と出会った2012年当時、その圧倒的な技術を持ちながらも、彼女は「自分の名前で商品を売ることができない」と深刻に悩んでいた。

専門学校で竹細工を学び、弟子入り先がなかった彼女は、独学で職業として成立させる道を模索していた。駆け出しの頃は老舗の竹工芸品店からの下請け仕事が大半。どれも高度な技術が要求されるのに、その対価だけでは到底生きていけなかったという。

「ネームバリューのあるお店や百貨店の催事なら、私の作ったものが安定的に売れる。でも、同じようなものを作って私個人の名のもとで売ろうとしても、全く売れないんです」

本当に悔しい思いをしてきたのだと思う。 どんなに素晴らしい技術を持っていても、「知ってもらわなければ無いのと同じ」。これは工芸の業界でも、他のビジネスでも全く同じ。

そこで僕が彼女にアドバイスしたのは、茶道具やテーブルウェアだけではなく、買いやすい作品、例えば「アクセサリー」とか作ってみてはどうか、ということだった。

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当時の彼女は盛籠や花籠を主に作っていたが、技術量も多く、時間もかかる。そして、そういった高価な道具にお金をかけるのは限られた層しかいない。でも、「アクセサリー」という形に変換した途端、20代から60代まであらゆる人が作品を見てくれるようになるのではないか。

市場でどんなものが売れているのかを自分自身でリサーチし、試行錯誤の末に行き着いたのが、京都らしい和の雰囲気を持ちつつ、現代的に洗練された繊細なデザインの「バングル」だった。 例えば、農具などに使われる伝統的な「六つ目編み」をベースに、さらに細い竹ひごを刺していく「牡丹透かし」という極めて複雑な編み方を落とし込んでいる。

強度と見た目の美しさを両立させるため、竹ひごの厚みや編み目の間隔をギリギリまで均一化する。たった1mm違うだけで見え方が大きく変わってしまうからこそ、彼女はどんな時も最高峰の美しいものを作るために一切の手を抜かない。(講座がない時も、時間を見つけては、メールで確認して、僕がいる場所まで何度も試作を持って訪れてくれたことを思い出します)

結果として、このバングルは彼女自身の「顔」になった。 このバングルを自分自身で身に着けることで、彼女は初対面の人にも「自分の仕事」を圧倒的な説得力をもって説明できるようになったのだ。

現場を回り続けていて、いつも職人さんたちに伝えていることがある。 それは、「定期定量、自分の技術が世に広がり売れていかなければ、生活は安定しない」ということ。

いま自分は「安定、挑戦、雇用」のどの段階にいるのか。 安定させるべき段階で、売れ行きが読めない挑戦的なものばかり作っていては、資金繰りが苦しくなるのは当然のことで。だからこそ、安定的に売れる基盤を作らなければならない。

彼女は作品ができた際に、試作展示していた東京での京都の若手職人の合同展で、出会った”Japan Expo Paris(ジャパン・エキスポ・パリ)”の事務局のスタッフの目に触れて、パリでの出品が決まった。

その後は情報が拡散されて、沢山の方々に知って貰える機会が増えた。

パッと想起してもらえる「顔になる作品」が一つできるだけで、職人の世界線は劇的に変わっていく。小倉さんのバングルは、まさにその事実を証明してくれた。

もちろんそんな簡単には行かないけれど、「何か」を変えていかなければ昨年と同じ結果になる。

「なぜ、自分は竹工芸に携わり続けたいのか?」 彼女は今でも、自分自身にそう問い続けているという。環境保全への思いや、自然のぬくもりを感じる竹工芸への純粋な愛情。そうした真摯な姿勢が、あの1mmの狂いもない美しいバングルに宿っている。

もし、今「自分の名前で売れない」と悩んでいる職人さんやクリエイターがいるなら、まずは自分の名刺代わりになる、圧倒的な「顔」を一つ、意地でも作ってみてほしい。 そして、知ってもらうための活動を、小さくとも毎日続けていくこと。そこから必ず、新しい道は開けると。

僕が工芸で初めて誂えたのは、彼女の作品、今も大切に使っています。

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