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「塗装の価値」を、もう一度見つめなおす。

インタビュー記事

長野県塩尻市。ギター塗装の技術で国内外の楽器メーカーから信頼を集めてきた企業がある。
株式会社三泰(SANTAI)。
代々受け継がれてきた塗装技術は、まさに職人たちの誇りそのもの。

けれど、三泰は「仕上げ」としての塗装ではなく、もっと人の心を動かす「表現」としての塗装を見つめ直そうとしている。
その変化のきっかけのひとつに、セメントプロデュースデザインとの出会いがあった。

きっかけは、一冊の本との出会いから

技術に閉じこもることのジレンマ

「うちの技術は、ファッション的に育っているんですよ」

そう語るのは、三泰の代表取締役・古畑裕也さん。
木に色を重ねて魅せるギター塗装の技術は、単なる保護や機能性を超えて、舞台で映える鮮烈な存在感を放つ。
一方で、それは生活の中とは少し距離のある世界でもある。ギターという文化の中で極められた技術が、他の領域へ広がることは、これまでほとんどなかった。

2008年のリーマンショック、そしてサブプライムローン危機。
製造業を直撃した不況の中で、OEMという立場の不安定さを痛感する。
「技術はある。でも、それをどう活かすか」──会社としての問いが、静かに芽生え始めた。

出会いは、学校に貼ってあったポスターだった

「自分でデザインを学ばなければ」と考えた古畑さんは、仕事のない週末に長野から東京へ通い、デザインの専門学校で学び始めた。
そんなある日、校内に貼られていた一枚のポスターが目に留まる。そこに写っていたのが、弊社代表の金谷だった。

「ただのデザイナーじゃない。この人なら、うちの技術に新しい命を吹き込める。」

そう確信し、すぐに連絡を取ったという。
三泰に足りなかったのは、技術ではなく「伝え方」だった。
どれほど優れた技術でも、共感を生み、物語として届かなければ、社会とは繋がれない。
セメントとの協業は、その扉を開く第一歩となった。

「木と色の可能性に挑戦する」という旗印

プロジェクトが始動したのは2018年頃。
だがその後、コロナ禍や木材供給の問題により、工場のオペレーションにも課題が生じた。
約2〜3年の空白期間があったが、時間をかけながら少しずつ再始動の歯車が回りはじめる。

そして、創業103周年を迎えるタイミングで生まれた言葉がある。
それが三泰のコーポレートアイデンティティ「木と色の可能性に挑戦する」だ。

この言葉は、単なるキャッチコピーではない。
職人たちが未来を語るための言葉であり、誇りと希望を結ぶひとつの旗印になっている。

技術を、文化へ。ブランドという「接点」

セメントとの協業を経て、三泰は3つの新しいブランドを立ち上げた。

  • STAINED WOOD:ギター塗装の美学を、暮らしの中へ。“木と色をまとう”プロダクトが生まれている。
  • 松本渓声塗り:かつて手がけていた伝統技術を、現代の器として再構築。塗装を“工芸”として捉え直す試み。
  • SANTAI GUITAR:塗装だけでなく、ギター全体で三泰の真価を伝えるオリジナルブランド。技術を「体験」として表現している。

これらのブランドは、技術を飾るためのものではない。
塗装の価値を生活の中に位置づけるための実践であり、「塗装って、こんなにかっこいいんだ」と伝えるための新しい存在でもある。

社内に芽生えた「誇り」と「未来」

この取り組みは、ブランドづくりであると同時に、職人やスタッフの意識を変えるプロジェクトでもあった。

「明確な未来が見えたんです。何のためにこの技術を磨くのか、それが言葉になった。」

塗装の職人、製品開発のメンバー、営業。
それぞれが自分の役割を再確認し、誰かのために手を動かすようになった。
小さな組織だからこそ、その変化は早く、確かな実感をもって共有されたという。

今では、「木と色の可能性に挑戦する」という言葉に共感して仲間になりたいと応募してくる若者も増えている。

「誰かが欲しいと思ってくれた」──その瞬間に、価値は生まれる

「買ってくれる人がいなければ、価値は証明できない。」

古畑さんがそう語る言葉の奥には、職人としてのリアルと、表現者としての覚悟が同居している。
モノを売るためではなく、誰かの心を動かすために挑戦を続ける。
その営みこそが、三泰にとっての「塗装の価値」なのだろう。

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