山中温泉 夜間回遊創出プロジェクト|灯す やまなか

石川県加賀市、開湯1300年の歴史を持つ山中温泉。
豊かな自然と伝統工芸、文人墨客が愛した情緒あふれる温泉地でありながら、夜の時間帯における回遊性という課題を抱えていました。

山中温泉観光協会さまよりご依頼を受け、夜の街を歩く理由を創出するライトアップ事業「灯す やまなか」を企画・設計・実装。ネーミング開発からロゴ・キービジュアル・WEB・ムービー制作、さらには象徴となる手持ち提灯のプロダクト開発、運営ディレクションまで一貫して伴走しました。

本プロジェクトは、単なるライトアップイベントではなく、温泉街全体を“夜の体験装置”へと再設計する取り組みです。

分析/ANALYSIS

現状分析・戦略設計

1|夜間回遊の欠如という構造課題
山中温泉は日中は賑わうものの、夜間は出歩く理由がなく、宿泊に繋がらないという課題を抱えていました。

  • 夜間は店舗が閉まり回遊性が低い
  • 宿泊者も館内滞在に留まる
  • 加賀温泉郷内での競争において山中の来訪者数が少ない

単発イベントではなく、
“街を歩きたくなる仕組みそのもの”が必要だと定義しました。

2|社会背景の変化
コロナ禍による観光減少、精神的ストレス、サスティナブル志向の高まり

「癒し」「安心」「人との距離感」「自然との共存」

これらの社会的変化を踏まえ、
山中温泉を“日本で一番癒される温泉街”へ再定義する構想を設計しました。

3|ブランド価値向上ステップ設計
本施策は、単発のライトアップイベントではなく、山中温泉のブランド価値を段階的に引き上げていく中長期戦略の第一フェーズとして位置づけました。

山中温泉は、自然・伝統工芸・歴史という本質的な魅力を持ちながら、それらが十分に“体験”として可視化されていない状態でした。そこでまずは、公共空間そのものを活用し、温泉街全体を舞台にした体験設計へと転換。

観光客が提灯を手に街を練り歩くことで、
自然と寄り添い、建築や工芸と出会い、人と交わる時間を創出。
「夜を歩く」という行為そのものを価値に変換しました。

この“歩く体験”は、山中温泉の本質である

・自然との距離の近さ
・歴史ある街並み
・人の温かさ

を身体感覚で伝える仕組みです。

さらに将来的には、北陸新幹線延伸を見据え、関東圏からの来訪者へ向けたブランド再認知を目指す構想も含んでいます。

そのための第一歩として、

夜を歩く理由をつくること。
温泉街そのものを体験装置へと変えること。

「灯す やまなか」は、山中温泉の未来戦略における起点となるプロジェクトです。

開発/DESIGN

ロゴデザイン

「灯す やまなか」という名称が持つ“灯りがゆらぎ、街に広がっていく”イメージを、文字の造形そのものに落とし込みました。提灯を想起させる柔らかな曲線と、手書きの温度を感じるフォルムで、山中温泉が持つ情緒・やさしさ・余韻を表現しています。ロゴ単体でも「夜の散策体験」を想像できるよう、硬い観光ロゴではなく、体験の空気感を優先した設計としました。

ネーミング・コピー開発


灯す山中 ー 旅人がもてなす 憩いの灯りたち ー

親本施策は、旅人が提灯を手に夜の温泉街を歩くことで完成する参加型のライトアップ事業です。
その構造を最も端的に表す言葉として選んだのが「灯す」という動詞でした。

“灯る”のではなく、“灯す”。
街が照らされるのではなく、旅人が灯す。

受動ではなく能動の体験へと転換することで、観光客自身が夜の温泉街の一部となり、街の灯りをともに創り出す存在となります。名称の「やまなか」はひらがな表記とすることで、1300年の歴史を持つ温泉地の重厚さに、やわらかさと親しみを重ねました。

サブコピー「旅人がもてなす 憩いの灯りたち」は、山中温泉が本来持つ“もてなしの文化”を、旅人へと反転させた言葉です。提灯を手にした旅人が街を歩くことで、灯りが増え、誰かをもてなす空間が生まれる。

人と街が交わることで完成する、夜の体験そのものを言語化したネーミング・コピー設計です。

キービジュアル(ポスター)デザイン

山中温泉の夜を“灯りの体験”として印象づけるため、提灯を手に街を巡る旅人の姿を主役に据えました。
ライトアップそのものではなく、「夜を歩く楽しさ」「憩いの時間」を切り取る構成としています。

背景には、提灯の灯りをモチーフにした黄色の抽象テクスチャーを展開。このビジュアル要素を統一して使用することで、街中での掲出時にも高い視認性と認知の連続性を生み出しました。レイアウトにあえて傾きを持たせることで、山中の夜を巡る高揚感や、感情が動く瞬間を視覚的に表現しています。

ポスターは複数パターンを制作。
モデルが街を歩くシーンをそれぞれ変えることで、山中温泉の名所を戦略的に訴求しました。

単に“きれいな夜景”を見せるのではなく、歩くことで出会える場所そのものをビジュアルに組み込むことで、回遊のきっかけをデザインしています。

また、Instagramなどで募集した写真を活用した展開も視野に入れ、参加型のプロモーションへと拡張可能な構造を設計しました。

本ビジュアルは、イベント告知に留まらず、
「山中の夜=灯りとともに巡る体験」というブランドイメージを形成するための基幹クリエイティブです。

ムービーデザイン

映像は、ターゲットである観光客を想定した2人の女性による“女子旅”を軸に構成しました。キービジュアルと同一モデルを起用し、世界観を統一しています。

昼間の山中温泉街を散策し、街並みを満喫する時間から始まり、旅館で提灯を手に取る瞬間をきっかけに、物語は夜へと移ろいます。

提灯の灯りとともに街へ繰り出し、こおろぎ橋や歴史ある建築、工芸、飲食店など、夜の山中温泉の魅力に包まれていく様子を描きました。灯りのゆらぎや歩くリズム、視線の動きといった繊細な表現を重ねながら、山中の夜に身を委ねる時間を丁寧に可視化。ワクワク感と同時に、“憩い”や“至福のひととき”を感じさせる、情緒的で品のあるトーンに統一しています。

イベント紹介に留まらず、「灯す やまなか」が生み出す一連の体験を映像として体感できる構成としました。

リーフレットデザイン

配布ツールとして制作したリーフレットは、観音開き仕様で設計しました。

表紙では「灯す やまなか」の世界観を端的に伝え、開くことで企画のコンセプトや参加方法、対象旅館・参加事業者の情報が一望できる構成にしています。

観音タイプとすることで、

・世界観の提示
・企画趣旨の理解
・参加事業者の紹介
・回遊のきっかけづくり

を段階的に伝えられる設計としました。

また、WEBやポスターと統一した黄色の灯りモチーフを展開し、紙媒体でもブランドイメージが連続するようビジュアルを統一。

単なる案内パンフレットではなく、
夜の温泉街を歩くための“手引き”となるツールとして設計しています。

WEBデザイン

WEBサイトは、キービジュアルと統一した世界観で設計しました。背景には提灯の灯りをモチーフにした黄色の抽象テクスチャーを展開し、オンライン上でも「灯す やまなか」の夜の空気感が感じられるビジュアル構成としています。

デザインだけでなく、情報設計にも重点を置きました。

・提灯レンタルの仕組み
・参加事業者の情報
・対象旅館・ホテルの紹介
・回遊スポットの案内

といった内容を整理し、初めて訪れる方でも企画の全体像を理解しやすい構成に。参加店舗の想いや取り組みも丁寧に掲載することで、単なるイベント情報にとどまらず、山中温泉全体の魅力が伝わるサイト設計としています。

世界観の継続と、回遊導線を支える実用性。
その両立を意識したWEBデザインです。

https://www.yamanaka-spa.or.jp/tomosuyamanaka

手持ち提灯デザイン(プロダクト)

本施策の象徴となるアイテムとして、山中漆器の器をモチーフにした“お椀型”の手持ち提灯をデザインしました。

山中温泉は、山中漆器の木地(きじ)づくりの産地として知られています。しかし観光客がその背景や技術に触れる機会は限られています。そこで、提灯という体験装置そのものに山中の工芸技術を組み込みました。

フォルムはお椀の丸みを想起させる造形に。
木部には山中漆器の木地で多用されるケヤキ材を使用しています。

特に持ち手部分には、山中漆器と同じ技法による“木地挽き”の加飾を施しました。細かな挽き目の連続が生む陰影とリズムは、機械的な加工ではなく、職人の手仕事だからこそ生まれる表情です。

観光客が提灯を手にすることで、

・山中が木地の産地であること
・漆器の技術が今も息づいていること

を、視覚だけでなく触感からも感じられる設計としています。

提灯は単なるレンタル備品ではなく、旅人が夜の温泉街を“灯す存在”になるための道具。持ったときの所作の美しさや佇まいまで含めてデザインしました。

また製造は地元企業と連携し、観光体験が地域産業へ還元される循環構造を構築。
観光と工芸を分断せず、体験の中で自然に結びつけるプロダクトです。

湯けむりミスト(夏季限定企画|2021年)

「灯す やまなか」のオープニング企画として、夏限定イベント「湯けむりミスト」を企画・デザイン・運営ディレクションしました。

山中温泉を想起させる“湯けむり”をモチーフに、街中にやわらかなミストを発生させる演出を設計。視覚的な涼やかさだけでなく、身体感覚としての心地よさを加えることで、夏の夜の回遊体験をより豊かにすることを目指しました。

観光客だけでなく、地元の方々にとっても憩いの場となることを意識し、山中温泉の持つ“やさしさ”や“包まれる感覚”を空間演出へと翻訳しています。

「灯す やまなか」が“灯り”による体験設計であるのに対し、「湯けむりミスト」は“空気”による体験拡張。
通年施策の世界観を保ちながら、季節に応じた演出でブランド体験を深化させました。

あかりの道(秋・冬年末年始限定企画|2021-2022年)

クリスマスシーズンの特別企画として、約200個以上の提灯を用いたインスタレーション「あかりの道」を企画・デザインしました。

本施策は、「灯す やまなか」で提灯を手に夜の温泉街を巡る体験の“到達点”として設計したものです。街を歩いた先に現れる、灯りが連なる風景。歩くことそのものに意味を持たせるための、象徴的な目的地をつくりました。

無数の提灯がつくる柔らかな光の連なりは、山中温泉の静かな夜景と調和しながら、冬の澄んだ空気の中でより一層幻想的な空間を生み出します。派手な演出ではなく、あくまで山中の持つ情緒を引き立てる“憩いの灯り”として構成しました。

「灯す やまなか」が“旅人が灯す体験”であるのに対し、「あかりの道」は“街そのものが灯る体験”。
個の灯りが集まり、温泉街の夜景へと広がる構造を可視化した、季節限定の空間演出です。

流通/PROMOTION

メディア発表会・点灯式

施策の立ち上げにあわせ、地元メディアおよび地域関係者を招いた点灯式・メディア発表会を実施しました。

発表会では、企画意図や山中温泉の夜間回遊における位置づけをセメントより説明。単なるイベント紹介ではなく、山中温泉のブランド価値向上を目的とした取り組みであることを明確に発信しました。

地元メディアへの露出を通じて、

・山中温泉の魅力の再認知
・「灯す やまなか」の取り組みの周知
・地域内外への波及効果の創出

を図りました。

プロジェクトの実装だけでなく、発信設計までを一体でディレクションしています。

「灯す やまなか」は、イベントではありません。

観光客が灯りを持ち、街を歩き、人と出会う。
その一歩一歩が、山中温泉の夜を形づくる。

夜を歩く理由をつくること。
そして、山中温泉のブランド価値を一段引き上げること。

伝統・自然・人柄という本来の魅力を活かしながら、
現代のニーズと接続する夜間回遊モデルを構築しました。

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