
着物依存からの脱却 – 新ブランドSOMEAができるまで
池内友禅
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Kyoto

福井県鯖江市。
眼鏡フレームの産地として知られるこの町に、もうひとつの顔がある。
約1500年の歴史を持つ「越前漆器」の産地だ。
その鯖江で、代々漆器づくりに向き合ってきた土直漆器。
現社長・土田直東さんは、父が創業した会社を引き継ぎ、伝統の技を守りながら、時代に合わせた新しいものづくりに挑み続けている。

我々セメントプロデュースデザインが土田さんと出会い、ブランド「VYAC(ビャク)」を立ち上げたのも、その挑戦心があったからだと思う。
土田さんに「土直漆器の一番の魅力は何ですか?」と聞いたとき、迷わずこう答えてくれた。
シンプルな言葉だけれど、その重さは職人としての年月が裏打ちしている。
現会長の土田直氏が15歳で漆器職人に師事し、昭和37年に独立。
昭和55年に株式会社として創業してから、土直漆器はお椀とお箸の製造を軸に、旅館や料理店向けの業務用漆器を手がけてきた。

時代が変わり、プラスチック製品が台頭し、木製のお椀の受注が減っていく中でも、
百貨店への展開や個人顧客へのシフトによって活路を切り拓いてきた。
現在は一般顧客向け漆器の販売が約9割を占める。
スタッフ15名のうち12名が漆器職人。
伝統技術を持つ一級技能士と伝統工芸士が在籍し、若手スタッフも多い。
ベテランの技と若手の発想が交わる現場が、土直漆器の強さだと僕は感じている。
土田さんが目を輝かせて語るのが、漆の可能性だ。
「いろんな分野で漆とコラボレーションできたらいいなと思います。」
この言葉が、VYACプロジェクトの出発点になった。


越前漆器の技法のひとつに「白檀塗(びゃくだんぬり)」がある。
銀箔で蒔絵を施した上に透き漆を重ねることで模様が浮かび上がる、古来より受け継がれてきた技法だ。
堅牢さと奥行きある色合いを兼ね備え、使い込むほどに風合いが変化する。
この技法を現代の日常プロダクトに乗せることができたら——そんな問いからブランドづくりが始まった。
ブランド名「VYAC(ビャク)」は、白檀塗の「白(びゃく)」から来ている。
伝統を「守る」のではなく、現代のライフスタイルに「活かす」。
その姿勢をそのまま名前に込めた。
僕たちが手がけたのは、企画・商品デザイン・ブランド設計・プロモーション・展示会ブースデザインまで一貫した仕事だった。
その中でまず考えたのは、「白檀塗が最も美しく見える形は何か」という問いだ。
生まれたのは、5つのプロダクトだ。
カードケース、iPhoneケース、マネークリップ、ペンケース、そして万年筆。

いずれも、日常的に手で触れ、持ち歩くものばかりだ。
これは意図的な選択だった。
漆の魅力は、触れるほどに育つことにある。
使い込むほどに表情が変わり、持ち主ごとに異なる風合いへと変化していく。
その経年美を日常の中で感じてほしかった。
特にこだわったのは、曲面の設計だ。
漆は光の当たり方によって表情が変わる素材。
カードケースの手に馴染む曲面も、ペンケース天面の緩やかな凹みも、万年筆の滑らかなフォルムも、
すべて「漆の艶と奥行きが最も美しく見える角度」を追いながら設計している。
VYACのもうひとつの特徴が、白檀塗の上に施されるオリジナルのパターンデザインだ。
唐草、千鳥(波千鳥)、カモフラージュ(日本庭園)、鱗模様、青海波結——5種類のパターンはいずれも、伝統文様を単に再解釈したものではない。
プロダクトの曲面や光の反射を計算した上で、柄の密度や強弱、線の流れを細かく調整している。
たとえば「千鳥(波千鳥)」は、「夫婦円満」「荒波をともに越える」という意味を持つ吉祥文様。
プロダクトの曲面を”波”に見立て、千鳥のサイズに強弱をつけることで漆の奥行きをより引き立てる設計になっている。
「カードケース」に施された「唐草」は、つながりやご縁を象徴する蒔絵。
“人と人をつなぐ道具”であるカードケースにふさわしい意味を、模様そのものに内包させた。
こういう細部の積み重ねが、工芸品を単なる「古いもの」ではなく、「持ちたいもの」に変えていくのだと思っている。
プロダクトが完成したら、次は「届ける」仕組みをつくる番だ。
VYACは東京ギフトショーへ出展した。
僕たちはブースデザインの設計だけでなく、会期中は土田さんと共にブースに立ち、バイヤーへの営業活動まで一緒に動いた。
ブースは、漆を想起させる真紅を基調に構成した。
会場内でもひときわ目を引く存在感を放ちながら、壁面には白檀塗の工程——木地、銀箔、透き漆——を視覚的に理解できるアートパネルを設置。
商品の背景と価値が、立ち止まるだけで伝わる空間を設計した。
展示会は「展示する場」ではない。
伝統技術の物語を語る場だと僕は思っている。
だから商品説明や価格設計、営業トークの整理まで行い、実際の商談にも同席した。
デザインの意図やブランドの思想を、バイヤーへ直接届ける役割も担った。
土田さんは、VYACの活動と並行して、もうひとつの取り組みも続けている。
「7人の工芸サムライ」——福井県に根ざす7つの国指定伝統工芸(越前漆器、越前焼、越前箪笥、越前打刃物、越前和紙、若狭塗、若狭めのう)の担い手たちが集まり、福井の工芸を一つのブランドとして発信していくグループ活動だ。

「みんな一致団結しているところが鯖江の良いところ」と土田さんは言う。
切磋琢磨しながら、それぞれの技を磨き続ける人たちがいる。
その空気が、土直漆器のものづくりにも流れている。
インタビューの最後に、こんな質問をした。「今の職業を漢字一文字で表すとしたら?」
土田さんは、即答した。
「漆(うるし)」
その答えが、すべてを物語っていると思った。
技法でも、素材でも、会社でもなく——「漆」そのものが、土田さんにとっての仕事であり、誇りであり、生き方なのだ。
1500年続く技術が、現代の日常プロダクトとして手のひらに収まる。
使い込むほどに育ち、持ち主の時間とともに完成していく。
VYACというブランドは、そんな漆の本質を、現代の暮らしに届けようとする試みだ。
土田さんの言葉を借りるなら、漆はまだまだ可能性を秘めている。
その可能性を一緒に探し続けることが、僕たちの仕事だと思っている。
